東京高等裁判所 昭和51年(う)103号 判決
被告人 杉田勝生
〔抄 録〕
所論に鑑み、記録、原審で取調べた各証拠並びに当審における事実取調の結果を精査すれば、被告人の量刑上留意すべき事情は以下の諸点である。すなわち、
(1) 本件は、被告人ら中核派に所属する活動家一〇名が革マル派活動家をすべて反革命分子と決めつけ、同派に対する党派、報復闘争として、これをせん滅する意図のもとに、非公然の暴力集団を編成し、綿密・周到な事前謀議を遂げたうえで敢行した計画的且つ組織的な犯行であり、その動機は、独自の革命理論に依拠するものであって、現行法秩序のもとでは決して許されず、全く酌量の余地がない。
(2) また、本件犯行は、人を優に殺傷するに足りる兇器であり、且つそのためにのみ使用すべく特別に製作したと認められる鉄パイプを用いて行なわれたもので、被害者矢崎は、全くの不意打ちにいち早く逃走を企てたが、問答無用にタックルされてその場に倒され、全く無抵抗で倒れているところを、虫の息になるまで頭部等ところかまわず右鉄パイプで執拗に強打されたこと及び被害者佃も、右加害を目撃してこれを制止しようとしたところを、右矢崎同様、鉄パイプで問答無用とばかり頭部等に執拗で強力な乱打を受けたことと相まち、その態様において悪質、残虐であり、その結果も、原判決が指摘するとおり、極めて重大である。
(3) 殊に、本件は、とにも角にも教育の府である大学の学生食堂において、白昼多数の男女学生が昼食をとっている最中に、その面前で傍若無人に敢行され、しかも突然の犯行に驚愕する一般学生の中から敢然として制止行為に出た勇気ある被害者佃に対してまでも仮借なき攻撃が加えられた事案であって、本件の及ぼした社会的影響はまことに大きく軽視できない。
(4) さらに、被告人は、原審及び当審公判廷において、一般学生である佃に重傷を負わせたことについては一応「佃君に対しては心から謝罪したい」と述べているものの、同人に対し、自らもしくは仲間を通じて右謝意に見合うような慰藉の措置を講じた形跡は全く窺われない。のみならず、被告人は、革マル派学生活動家である被害者矢崎の死亡については、むしろ同人が殺害されたことは歓迎さるべき喜ばしいことであるとし、自己の行為を反省しないばかりか、死者に対し哀悼の意を表明しようともせず、かえって今後とも中核派に止り、その革命理論を信奉し、革命の敵である革マル派のせん滅のために尽力するとうそぶくのである。かかる被告人には自己の行為には人間として責任を持つ謙虚な革命家としての人間性の一片も見出すことができず、全国各地で同種内ゲバ事件が頻発している折から、その再犯の虞れは極めて大きい。
以上の諸点に徴すると、被告人の刑事責任は極めて重く、本件において総指揮者と目されるのは前記水島であって、被告人ではないこと、被告人には前科がないこと等の事情を被告人に有利に参酌し、共犯者井内良司に対する確定判決の量刑を考慮しても、被告人に対する原判決の量刑(懲役七年)は軽きに失し、不当であると認めざるを得ない。
なお、原判決は、量刑上斟酌すべき被告人に有利な事情として、被告人が犯行現場にあって殴打行為自体に直接関与しなかったことを挙示し、弁護人も右の点を有利な情状として主張する。なるほど、本件においては、被告人が被害者らにタックルし、鉄パイプで殴打した前示水島ら数名のうちの一人であると断定するには、検察官の控訴趣意書中の主張にもかかわらず、証拠上、合理的疑いなしとしない。しかし、他面、被告人は当日、すでに認定したように、横浜国立大学構内の学生食堂の中にいる革マル派学生活動家を、謀議したところに従い、所携の鉄パイプを用いて襲撃する意図で、井内良司を除く他の共犯者とともに同食堂内に侵入したものであり、さらに、井内良司の検察官に対する前掲各供述調書謄本及び被告人の原審公判廷における供述を総合すれば、右のように同食堂内に侵入した被告人は、さらに水島ら他の共犯者らと共同して被害者らを所携の鉄パイプで殴打すべく、同所に転倒している被害者らを殴打しつつあった水島の鉄パイプが自己の前頭部に誤って当たるところまで、被害者らに近づいたが、右鉄パイプが当たったことにより前額部を負傷し、一瞬蹲るなどしているうち、水島ら数名は殴打行為をやめて一斉に逃走し出したため、被害者ら殴打の機会を逸したことが認められる。また、本件共犯者一〇名のうち、総指揮者として被告人らを指揮、統率したと目される水島を除く九名は、その間に実質的上下関係は認められず、事前の謀議において、各自が革マル派学生活動家襲撃の実行行為、すなわちタックルと鉄パイプによる殴打行為を分担すべく指示、訓練されていたことは、すでに認定したところから明らかである。したがって、これらの諸事情に照らせば、被害者らに対し現実に殴打行為をなしたものと、被告人のようにたまたま被害者らを殴打できなかったものとの間には、刑事責任において、量刑上斟酌しなければならないほどの径庭は存しないというべきである。
(相澤 大前 油田)